水没

(これは2019年の夏、私が18歳の頃に書かれた記事です)

 

朝、美術予備校へ向かう途中、時間があったので駅のスタバで時間を潰していた。

 

しかしやがて、微弱な便意に襲われてトイレットへと向かった。微弱とはいえ、便意をナメてはいけない。放置すればそれはやがて巨大な津波となり、やがて私を、そしてすべてをのみこんでいく…。

 

船橋駅のスタバのトイレの扉を開ける。

 

誰もいなければそこはもう私の部屋、パーティルームだ。

そしてズボンを下ろせばパーティタイムの始まりだ。

 

半笑いでベルトを外しながらふと時間が気になった。

「そういや今何時だろ?」

ポッケから携帯を取り出すと同時にポチャン!と音がした。

「ポチャン?」

手を見ると取り出したハズの携帯が無い。

 

ハッ!!まさか……!?

純白の便器にわずかながら貯まっている水の中で、私の携帯はゆあ〜ん、ゆよ〜ん、ゆやゆよんと舞いながら便器の一部と化した。

 

「Nooooo~ッ!!!!! No more war!!!!!」

 

私は水に手を突っ込んだ。

こうなっては汚いなどと言ってはいられない。

指先に当たった携帯は少し奥へ行ってしまいそうになる。

「フンガー!」

人差し指と中指を高速に動かして引き寄せる。

こんなに必死になり、緊急事態なのに、絵面はめちゃくちゃ地味だ。

 

何とか携帯をとりだし、軽く拭いた。

画面は生きている。

 

ホッとしてとりあえずパーティの続きを味わうことにした。

発射という名の乾杯が済んだ頃、突然携帯の画面がブラックアウトした。

「ゲッ!!!!!!」

 

私は高速でケツを拭いた。いや、

音速で拭いた。

いや、もしかするとケツなど拭いていないのかもしれない?

今となっては定かではない。

 

私は下半身丸出しで予備校に行くと、唸りながら頭を抱えた。

 

「どうしたの?」と問う友人。

「わしが男塾塾長、江田島平八であ〜る!」

唯一できるモノマネを友人に披露した。

「そうじゃなくて、頭抱えてどうしたのか聞いてるの」

私の渾身のモノマネはガン無視された。

「便器に携帯落として画面つかない…」

「どけっ!!!!!!貸せ!!!!!!」

「ぐぉっ!!!」

彼女は私の顔面に見事な一発を食らわせると、携帯を奪い、決死の救命活動が始まった。

 

「戻ってこぉい!!戻ってこぉい!!!!!」

 

ドライヤーでひたすら乾かしていると、一瞬画面には配信される占いが映った。

 

「本日のおとめ座……1位」

「嘘つけえええい!!!!!!!」

私は江田島平八のモノマネで携帯にツッコんだ。

 

こうしてショックから、1日ずっと携帯を乾かしていた。

バッテリーを入れる。

ゆっくりといつもの待受画面が現れた。

 

ア・バオア・クーでシャアとの激戦を終えたアムロは死を覚悟しただろう…。

アムロはララアに今から君に会いに行くよと告げた。

その時アムロは点滅する光を見つける…。

それはランチからの光だった。

ホワイトベースの仲間たちがアムロに向けて放った光だった。

「ごめんよ…僕にはまだ帰る場所があるんだ」

ララアにそう告げるとアムロは最後の力を振り絞り、コア・ファイターに乗り込んだ…。

 

あのときランチからの光を見つけたアムロの気持ちがわかる気がした。

友人の決死の応急処置が実を結んで、水没した私の携帯は復活した。

 

「ごめんよ…僕の携帯にはまだ帰る場所があるんだ」

一応ララアに断ってみた。

 

いま、復活した携帯でこの文を書きながら「めぐり逢い宇宙」編の主題歌「ビギニング」が私の頭の中で流れている…。

 

まあ、そんな感じです。

 

(これは2019年の7月、私が18歳の時に書かれた記事です)