私自身が小さい頃に体験した、少し恐ろしい話をしようと思います。
私の生まれ育った町はとある太平洋沿岸の小さな港町なんですよね。夏になれば海水浴客である程度賑わうけれど、その代わり冬には人の往来はほとんど無いような、そんな自然豊かな田舎町でした。
そしてそんななにも起こらないような田舎町に住んでいた私は小学生時代、小学校のすぐ側にある林の中に友達数人と秘密基地を構えていたんですね。小学校5年生ぐらいだったかな〜。背高草を結んで作った小屋の中に色々小道具を持ち込んで、割と手の込んだ秘密基地作ってたんですよ。夏休みならまあ大体18時前ぐらいまで遊んでたかな〜。
だけどある日の朝、秘密基地に出かけようとしたら玄関で親に呼び止められたんですよ。
「今日は必ず17時までには帰ってこい、それと絶対に1人になるなよ」
って言うんですよね。
なんで?って聞くと、その数日前に隣町で子供が誘拐される事件があったんですよ。犯人もその子供もまだ見つかってなくて。だから本当は行かせたくないけど百歩譲って17時までには帰れ、ということでした。
へえ〜そうなの、まあでも、隣町だしな〜と、私はその話を気持ち半分ぐらいに聞き流してまた秘密基地へと出かけたんですよ。
そして秘密基地へと向かう路地を1人で走ってると、路地をぬけた先の方に知ってる顔が歩いていたんですよね。
私の地元では、『パンツマン』と呼ばれてる中年男性なんですけど。
昔はすごく頭がよくて、地理学で名門大学まで進学したらしいんですけど、何かのきっかけで痴呆になってしまって、ブツブツなにかを呟きながら年中パンツ一丁で歩いてるんですよ。だから『パンツマン』。
今となっては怖いですけど、当時の私は痴呆とか障害とかよくわかってなくて、そのパンツマンをただの変わった面白おじさんぐらいに思ってたんですよね。だから
「おーい!パンツマン〜!」って言って彼の元に駆け寄ったんですよ。今考えればすげーな。
けどまあ、無視ですよね。
私なんかには目もくれず、ひたすら何かをブツブツ唱えながら歩いてるんですよ。
一体何を呟いてんだ?と耳を傾けると、
「35度・21分・140度・11分・35.10009.....」
とか訳の分からない数字の羅列を呟いてるんですよ。正確な数字は覚えてないですけど。
なんなんだ…と思いつつ、まあいいやと私はその場を後にしたんですよ。
そして数分後、
秘密基地に着いた私は衝撃の光景を目の当たりにしました。
ないんですよ。秘密基地が。
背高草の小屋は踏み倒され、中にあった荷物はその外に放り出され散乱していました。
「なんだこれ…」と途方に暮れていると、先に到着していた友人Aが草陰から号泣しながら出てきました。
「6年生の○○がやったんだ!!!あいつ頭おかしいもん!!」
とか言ってすげー興奮してて。私は「悔しいけど落ち着けよ、また作り直せばいいじゃん」とか慰めてたけど、私も悔しくてちょっと泣いてたと思います。
その後数人友達が遅れて到着してきて、同じようにショックを受けてましたね。とりあえず犯人は上級生のガキ大将の逆恨みだろう、といことで満場一致でした。
その後少しみんなの興奮もある程度冷め、基地の跡地で喋っている時、「そう言えばさっきパンツマンの呟きを聞いたよ」っていう話をしたんですよ。
そしたら一同大興奮で。
「え!?なんて言ってた!?なんて言ってた!?」と口を揃えて詰めてくるんですよ。
「え〜、なんかわかんない、変な数字いってた。35、12分、とか…なんだろ、わかんないけど」
と言うと、友人Bが少し考えた後に、
「それってさ、もしかして『緯度』と『経度』じゃね??こないだ社会で習ったばっかじゃん」
と言うんですね。
あ〜、言われてみれば…そんなことも習った気がする。
そしたら緯度35度12分、経度140度11分の場所…ってことになるのか。しらんけど。でも辻褄は合うよね。
でも当時は私達スマホなんか持ってないし、唯一の連絡手段はBの持ってるキッズケータイだけだったんですよ。
だから緯度経度がわかったところで調べようが無いし、とりあえずパソコンが自宅にあるAが家で調べることになって、その日は解散になったんですよ。
そして日をまたいで、次の日。
私は秘密基地に一番乗りで、仲間たちが集まるのを待ってたんですよ。そして直にD、Cという流れで仲間が到着してきて、最後にAがやってきたんですけど、
Aの顔がめちゃくちゃ青ざめてるんですよ。
なに?なに?どうした?
するとAは口をゆっくりと開いて、
「おれんちだった…。」
って言うんですよ。
一同、ハッとなにかを察しましたよね。
昨日の緯度経度の座標だ。
Aの家だったんだ。
は?え?なんで?
疑問しかないですよね。
なんでパンツマンがAの家の座標を????
わからんわからん。気味が悪すぎる。
この時からですよね。今までただの面白おじさんだったパンツマンが一気に恐怖の対象になりました。
昨日から基地を壊されるし、パンツマンの座標はAの家だし、もう精神的に疲労困憊だった私達はその日すぐに解散して家に帰りました。
と、まあ、ここでこの話は一旦終わりなんですけど。
すいません、私達の誰かがパンツマンに襲われるとかは全然無いし、誘拐事件の犯人も、基地を壊したのも全然パンツマンじゃありませんでした。
後から分かったことなんですけど、私達の基地を壊したのは、Aのお父さんでした。
Aのお父さんは少し心に問題を抱えていて、ストレスで身内に当たることも多かったようです。深くは聞きませんでしたけど。
そして、隣町の誘拐事件の犯人は10数年経った今も未だに逮捕されてないし、誘拐された子も見つかってません。
そしてなぜ、パンツマンがAの家の座標をブツブツ呟いていたのか。
それもわかりません。実は座標というのは私達の早とちりで、その数字にはもっと別の意味があったのかもしれないし。
こんな曖昧なオチで申し訳ないんですけど、子供時代の私に言葉にできない恐怖と胸糞悪さを植え付けた、人生で最も印象深い出来事です。
まあ、そんな感じです。
この話は、本当の話です。